午前10時の会議室は3階。エレベーターの前には人が並んでいる。
資料を片手に、階段を選ぶ。2階の踊り場を過ぎたあたりで、太ももの前だけがじんわり張ってくる。
息はそれほど上がっていない。膝も痛くない。それなのに、脚の前側だけが先に重くなる。
「脚が弱ったのか」と考えて、スクワットの回数を増やす。翌週も、同じ場所が張る。
この記事では、階段で太ももの前ばかり疲れる理由を整理します。最後に、椅子1脚で今日確かめられる方法と、手を打つ順番を書きます。
まちょす階段で太ももがパンパンっす!スクワット倍にして、前ももをもっと鍛えるしかないっすよね!
ハムスケその前もも、もう一番働いてません?
エグゼ筋足りないのは太ももの力ではありません。お尻に仕事が回っていないのです。階段で太ももの前ばかり疲れるとき、体で起きていること
階段の上りは、本来2か所で分け合う仕事
1段上がるとき、前に置いた脚は体重をまるごと持ち上げます。
このとき働く大きな筋肉は2つです。膝を伸ばす太ももの前と、股関節を伸ばすお尻です。
太ももの前の筋肉は大腿四頭筋、お尻の筋肉は大殿筋といいます。どちらも脚を伸ばす側の主力です。
本来は、この2つで体重を分け合って上がります。片方だけが先に疲れるのは、配分が偏っているサインです。
見落とされている原因:お尻に仕事が回っていない
上体を立てたまま、膝を前へ出して段を踏む。この上り方だと、負担は膝の側に集まります。
股関節の動きが小さくなるので、お尻は十分に伸ばされません。伸ばされにくい筋肉には、出番が回りにくい。
結果として、太ももの前が持ち上げ作業の大半を引き受けます。張るのは、太ももが弱いからとは限りません。
お尻の分まで働いている可能性があります。
太ももを鍛えてもズレる理由
ここで前ももを鍛えると、疲れにくくなる部分はあります。ただし配分は変わりません。
工場に置き換えると分かります。2台で回すはずのラインで、1台が止まったまま、もう1台を定格超えで回している状態です。
動いている機械を強化しても、止まっている機械は止まったままです。先に見るのは、止まっている1台です。
13年・現場1万時間で、最初に見る場所
デスクワークの人を見るとき、私が最初に確認するのは股関節の可動域です。
脚の筋力より先に、ここを見ます。現場で確かめると、大半はお尻ともも裏が硬いからです。
お尻ともも裏が硬いと、股関節から体を折りたたむ動きが小さくなります。すると、階段でも椅子でも、膝で処理するしかなくなる。
「階段で脚が疲れる」という訴えに、脚の筋トレだけで答えないのはこのためです。
通っているのに変わらない理由を段階別に整理した柱記事が、ジムに通っても変わらない人の5つの共通点です。
お尻が使えない状態を、神経の視点から見る
メカニズム:動きは、使った順に定着する
脳は、体重を支える動きを毎回考えて組み立てているわけではありません。慣れた動かし方を、自動で呼び出しています。
毎日、膝主導で立ち上がり、膝主導で段を上がる。その動かし方がいちばん呼び出しやすくなります。
お尻の筋肉が消えたのではない。呼び出される回数が減っている、と私は考えています。
疲れを体力不足だけでなく、神経の出力の問題として見る。EBAの考え方は、ここでも同じです。
配分が変わることは、研究でも確認されています。
ランジ(片脚を前に踏み出す種目)で上体を前に傾けると、お尻ともも裏の筋活動が増えました。
出典:Farrokhi ら, J Orthop Sports Phys Ther, 2008
これは階段そのものの実験ではありません。ただ、同じ脚の動作でも、上体の角度で仕事の配分が変わることを示しています。
階段の上りを調べた報告でも、上体を前に傾けると、股関節が内側へ入る動きが小さくなりました。
出典:Atkins ら, Gait Posture, 2022(健康な女性が対象)
経営者に特有の条件:座る時間と、上がる回数の少なさ
日本の成人の平日の座位時間は、中央値で1日約7時間でした(Bauman ら, Am J Prev Med, 2011)。
役員室、車の後部座席、会食の席。場所が変わっても、股関節は曲がったままです。お尻は座面に押され、脚の付け根は縮みます。
脚の付け根が縮むと腰にも影響が出ます。その話は腰が重いのは腰のせいではない|座りっぱなしで縮む脚の付け根で扱いました。
さらに、ビルの中の移動はエレベーターです。階段に足をかけるのは、混んでいるときだけ。
つまり久しぶりの階段を、片手に資料とカバンを持ち、革靴で、急いで上がっている。腕も振れず、膝で押し上げる形になりやすい条件がそろっています。
階段の疲れ方を、椅子1脚で確かめる方法
器具は要りません。自宅の椅子で、1分で終わります。
- 椅子の前に立ち、足を腰幅に開く
- お尻を真後ろへ引きながら、5秒かけて下ろす
- お尻が座面に触れたら、体重を預けずにそのまま立つ
- これを5回くり返す
見るのは3点です。
- 音:最後にドスンと座ったら、下ろす力が途中で切れている
- 順番:動き始めに、お尻より先に膝が前へ出ていないか
- 場所:5回終えたとき、張るのは太ももの前か、お尻の下か
太ももの前だけが張り、お尻に何も感じないなら、階段で起きていることと同じ配分と見てよいでしょう。
もう1つ、記録しておくと比べられる数字があります。何段目で太ももの前が張り始めるかです。
いつも使う階段で、1回数えるだけです。費用はかかりません。感覚ではなく段数で、今月と来月を比べられます。
太ももの前の疲れに、手を打つ順番
判断基準:太ももを鍛える前に、お尻の出番を戻す
原則はこうです。太ももの前が先に疲れるなら、まずお尻の出番を戻す。
ただし、これがひっくり返る条件が1つあります。脚全体の力そのものが落ちている場合です。
見分ける基準は、手を使わずに椅子から10回立てるかです。
- 10回立てる:配分の問題として、この記事の順番で進める
- 途中で手をつく:脚全体の力から戻す
後者の人や、脚より先に息が切れる人には、こちらが先です。階段で息が上がるようになったら|落ちているのは心肺ではなく脚である
優先順位:一度決めれば続く対策から入る
対策は2種類に分けます。忙しい週に落ちるのは、毎日やる方です。だから、一度決めれば続く方を先に入れます。
一度決めれば続く対策
- 移動のルールを1つ決める:社内で2階分までは階段、と決めて判断をなくす
- 資料はカバンに入れる:片手がふさがると、腕が振れず膝で押す形になる
- かかとの減った靴を直す:踏んだ足が安定しないと、膝でブレを止める
毎日やる対策
- 昼食の前に、さきほどの椅子の動作を5回
- 階段では、足裏全体を段に置き、上体をわずかに前へ倒して、かかとで段を押す
毎日の方は、できない日があって構いません。階段の踏み方は、1日に上がる数回だけで十分です。別の時間を取る必要はありません。
先に医療機関で確認すべき場合
次に当てはまるなら、体の使い方の工夫より先に受診してください。
- 階段で胸の痛み、圧迫感、強い息苦しさが出る
- 膝が腫れている、熱をもっている、動かすと引っかかる
- 片脚だけ急に力が入らない、しびれが広がる
- 歩くとふくらはぎが痛み、休むとおさまることをくり返す
階段の不調には、筋肉の配分とは別の原因が隠れていることもあります。ここは自己判断で進めないでください。
階段の太もも疲れで、よくある質問
お尻の筋トレだけをすれば解決しますか
順番としては正しいですが、それだけでは足りません。お尻を鍛えても、階段を膝主導で上がれば、配分は元のままです。
鍛えるより先に、いつもの動作の中でお尻が使われる形に変える。ここを飛ばさないことです。
階段の下りで太ももの前がつらいのも同じですか
別の話です。下りの太ももは、体重にブレーキをかけ続けています。
下りで膝に痛みが出る場合は、階段を降りるときだけ膝が痛い|上りと下りで違う理由を読んでください。
まとめ
- 階段の上りは、太ももの前とお尻で分け合う仕事
- 太ももの前だけ張るのは、お尻に仕事が回っていないサインのことがある
- 座る時間が長いほど、膝主導の動きが呼び出されやすい
- 確認は椅子1脚。音・順番・場所の3点と、張り始める段数を見る
- 10回立てない場合は脚全体から。胸の症状や腫れがあれば医療機関へ
太ももが張るのは、太ももが怠けているからではありません。
働いていないお尻の分まで、太ももが一人で持ち上げているだけです。
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